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名古屋地方裁判所 昭和40年(ワ)108号 判決 1968年9月14日

主文

(一)  被告は、原告に対し、別紙第一目録記載の土地につき名古屋法務局昭和三九年五月二三日受付第一八九三号をもつてなされた同年同月二〇日代物弁済を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(二)  被告は、原告に対し、別紙第二目録記載の家屋につき名古屋法務局昭和三九年六月一日受付第二〇一八二号をもつてなされた右同日付売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(三)  引受参加人は、原告に対し、右土地および家屋につき名古屋法務局昭和四〇年一月二二日受付第一九三五号をもつてなされた同年同月一五日売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(四)  訴訟費用は、被告および引受参加人の負担とする。

事実

(原告の請求の趣旨)

主文第一ないし第四項同旨の判決を求める。

(原告の請求の原因)

(一)  訴外見田鐘一および見田千代子は夫婦である。右訴外人らは、その債権者である〓本シヅからそれぞれ破産宣告の申立を受け、鐘一は昭和三九年八月五日午前一〇時、千代子は同年一〇月二三日午前一〇時、名古屋地方裁判所において破産宣告を受け、原告は各事件について破産管財人に選任された。

(二)  別紙第一目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は右鐘一および千代子の共有(持分各二分の一)に属し、別紙第二目録記載の家屋(以下「本件家屋」という。)は、鐘一の単独所有に属するものであつた。

(三)  見田千代子は、呉服類の行商を営み、夫鐘一は自動車運転をして千代子の営業を補助していたものである。千代子は、得意先の婦人等から営業上の資金にことよせ多額の金員を借入れ、その結果夫婦それぞれの名義で数千万円(破産手続において届出があつた債権だけでも鐘一分三八〇〇万円余、千代子分二九〇〇万円余)の債務を負担するにいたつたが、その弁済ができず、債権者においても千代子夫婦の行動に疑問を持ち追求が激しくなつたため、遂に千代子は昭和三九年五月一九日家出し、現在にいたるも行方不明である。(なお、同人は詐欺容疑者として指名手配中である。)

(四)  鐘一、千代子は、破産債権者を害することを知りながら、昭和三九年五月二〇日付で本件土地を代物弁済として被告に譲渡し、同月二三日主文第一項記戴の所有権移転登記をなし、次いで、鐘一は同様破産債権者を害することを知りながら、本件家屋について同年六月一日自己名義に保存登記をしたうえ、即日これを被告に売渡し、かつ、主文第二項記戴の所有権移転登記をなした。

(五)  引受参加人は、昭和四〇年一月一五日被告から本件土地家屋を買い受け、同年同月二二日主文第三項記載の所有権移転登記をなしたものであるが、右本件土地家屋の転得に際し、前記鐘一、千代子等について前項記載のごとき否認原因ありたることを知つていたものである。

(六)  よつて原告は、本件土地家屋につき、鐘一、千代子のなした被告への譲渡行為は破産法七二条一号により、被告のなした引受参加人への譲渡行為は同法八三条一項一、三号により、それぞれこれを否認し、被告に対し主文(一)、(二)記載の所有権移転登記の、引受参加人に対し同(三)記載の所有権移転登記の各抹消登記手続を求める。

(被告の答弁および主張)

(一)  原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。

(二)  請求原因事実中(一)、(二)は認める。(三)のうち見田千代子が現在行方不明であり、指名手配がなされていることは認めるが、その余は不知。(四)のうち、原告主張の各登記がなされていることは認めるが、その余は否認する。(五)のうち本件土地家屋が引受参加人に売却されその登記がなされていることは認めるが、その余は否認する。

(三)  被告は、昭和二五年頃、見田千代子と知合いになり、同三六年一一月頃から同人に貸金をするようになつた。千代子の言によれば、親戚の電気器具商が資金として使うもので、利息は月三分ないし四分を支払うから一〇〇万円を融通してもらいたいということであつたので、被告が他から借入れて来て千代子に渡したのが第一回となり、その後昭和三七年九月頃までに被告の千代子に対する貸金の額は約一〇〇〇万円にも達してしまつた。貸金がかく巨額にのぼつたのは、千代子が月末には必らず利息金を支払い、怠つたことがなく、その信用度が満点に近かつたからである。それ故、利息金をそのまま貸付けていつた関係もあり金額が膨張したのである。被告は、自己の金主から月三分ないし四分の利息で借り入れ、同じ利息金で千代子に貸付けていたのであるが、これは千代子の利息の支払が極めて誠実で信頼するに足りたためと被告が自己や弟の病気の際および被告現有の家屋建築の際などに千代子からも親も及ばぬ位の世話を受けたので、これに対する感謝報恩の念から出たことである。

(四)  さて、昭和三七年九月末、被告は千代子からさらに、貴金属商の営業資金として一〇〇〇万円の貸付の申入を受けた。被告としては、これに応ずれば、自己の懐から出たものでない二〇〇〇万円の巨額の金員を無担保で貸付けることになり、躊躇せざるを得なかつたが、千代子は本件土地家屋を担保に入れるから是非融通してくれと被告に迫つた。(ただし、本件土地は、この当時区画整理中で、地上には二〇〇年位経過した古い建物が建つていた。千代子は、この古い建物を取壊してその跡に新築する予定であつた本件家屋を担保にするといつたのである。)そこで、被告は、引受参加人や司法書士堀某と相談したうえ、本件土地の権利証、売渡証書、白紙委任状および印鑑証明書を鐘一、千代子から受取つて一〇〇〇万円を同人等に貸付けることになつたのである。被告としては、もとより、この時に移転登記手続をしておくべきであつたが、前記のように、本件土地は当時区画整理中であり名古屋市から補償金が出ることになつていたところ、移転登記をすれば、補償金の額や支払方法が鐘一、千代子のために不利になるので本件家屋の新築竣工後にこれをなすこととし、右権利証等を受領するにとどめたものである。しかし、訴外鶴田清からの忠告もあり、昭和三七年九月二五日付で本件土地家屋の名義を変更することを承諾する旨の書面(乙第一号証)を鐘一、千代子に差入れさせ、かつ、同年一〇月一〇日を第一回とし、三ケ月毎に必ず同人等の新しい印鑑証明書の交付を受けていたのである。

(五)  右昭和三七年九月当時でも本件土地の時価は三〇〇〇万円もあり、その後被告はさらに一二〇〇万円余を鐘一、千代子に貸付け、総額は三二九七万円に達した。このうち一八〇万円が被告の金で、残りは鈴木、日比、木村、犬飼、立松、飯田、酒井、寺野、森田、高橋、中村、王子商事等から出たものである。鐘一夫婦は昭和三八年一〇月頃本件家屋の新築工事に着手し、翌年二月初め頃これが完成したので、被告は同人等に対し、当初の約束どおり本件土地家屋につき所有権移転登記を強く要求した。しかるに、右登記に要する書類が完備せず、日時を徒過するうち千代子が家出するという事態を迎えるにいたつたのである。

(六)  千代子は、昭和三九年五月一九日家出したものであるが、被告はその前日である五月一八日にすら、王子商事から三五万円を借入れて、この金を千代子に貸付けているのである。右千代子の家出の直後、被告は鐘一からこれを知らされ、家出の原因を尋ねたところ、被告以外にも借金があるらしいとのことであつた。そこで、被告としても、これ以上は待つ必要なしと考え、本件土地家屋につき原告主張のごとく所有権移転登記を完了したものである。

(七)  被告は、千代子の家出により、被告の金主(債権者)である前記(五)記載の人々の信用を失つた。そして、右債権者等の協議の結果全員の間に信望のある引受参加人に本件土地家屋の名義を移転することとし、原告主張のごとく、引受参加人のため所有権移転登記がなされたものである。従つて、現在本件土地家屋は引受参加人名義に登記されているが、決して同人の単独所有というわけではなく、被告を通じ鐘一、千代子に出資した人々の代表者というにすぎないのである。

(八)  以上に述べたとおりで、被告は昭和三七年一〇月一〇日頃既に本件不動産について所有権移転登記をなし得たものであり、当時鐘一、千代子夫婦の経済状態は普通であり、何等危惧すべき点は見当らなかつた。また、被告は、被告以外に鐘一夫婦に対する債権者がいるなどということは考えてもいなかつたので、他の債権者を害する意図などは毛頭ない。よつて、原告の請求は失当である。

(引受参加人の答弁および主張)

(一)  請求棄却の判決を求める。

(二)  請求原因事実中、見田鐘一および見田千代子が破産し、原告がその破産管財人に選任されたこと、右訴外人等から被告のため原告主張のごとき所有権移転登記がなされていることは認めるが、その余の事実は不知。

(被告の主張に対する原告の反駁)

(一)  被告は、本件土地家屋の所有権移転登記は、既に昭和三七年九月末にはこれをなし得たものであるから、被告の譲受行為が否認の対象にならない旨主張するが、少くとも本件家屋については、その竣工が昭和三八年一二月二日であつて、右同日以後でなければ、移転登記をなし得ないことが明らかである。また、仮に、被告主張のごとく昭和三七年九月末本件土地家屋について譲渡担保契約がなされたとするも、これについては登記が存しないから原告に対抗することができない。

(二)  被告は、被告が鐘一および千代子に対し三二九七万円の債権を有する旨主張するが、右のうち少くとも八四七万円についてはその存在を証明する資料さえない。また残余の金額のうち二〇〇〇万円余については被告に本件所有権移転登記がなされた際弁済期が到来していなかつた。

(三)  被告が自己の債権者(金主)であると主張している人々は、被告の母、弟妹、叔父、叔母等親戚縁故者が多いこと、被告は千代子からはかり知れぬ恩義を受けたといいながら、その内容は一向に明らかでなく、被告自身の拠出した金員についてさえ千代子等から一ヶ月三分ないし四分の高利の支払を受けていること、被告が本件土地家屋につき移転登記をなしたのは千代子が家出をした後のことであつて、その時には被告の外にも多数の債権者があり、その額も巨額であることが判明していたこと等の事情を考え合せれば、本件土地家屋の譲渡行為が、破産債権者を害することを知つてなされたものであることは明らかである。

(四)  引受参加人が、本件土地家屋を転得した当時においては、鐘一、千代子に対しては既に破産宣告がなされており、前取得者たる被告に否認原因のあつたことを熟知していたものである。引受参加人への所有権移転登記は、原告の本件土地家屋の回復請求を困難ならしめる意図に出たものに外ならない。

(証拠関係)(省略)

別紙

第一目録

名古屋市中村区納屋町二丁目一番の三

一、宅地     四五坪(一四八・七六平方メートル)

第二目録

名古屋市中村区納屋町二丁目一番の三

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建 一棟

床面積 一階    六二・四七平方メートル

二階    五八・六四平方メートル

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